映画『ブレードランナー2049』/何てこった! またこうしてレプリカントたちに出逢えるとは!

Pocket

【※注意】ネタバレあります! 前作および原作についても触れています。ぜひ鑑賞後にお読み下さい。

観てきましたよ、『ブレードランナー2049』。何年か前にネットで〈ブレードランナーの続編製作決定。リドリー・スコットが監督、ハリソン・フォードも出演〉というニュースを見たとき「おお……」と身震いした私。前作・原作とからめての感想をいろんな角度から書きつらねます。

■35年ぶり■

前作『ブレードランナー』が1982年公開ということで、35年ぶりの続編。ハリソン・フォードは今75歳だから、当時は40歳だったのか。

何十年も経ってから、同じ俳優を使っての続編って『スターウォーズ』『インディ・ジョーンズ』あたりは有名ですが、ハリソン・フォードはそのどれにも出てますね(これほど役に恵まれた俳優が他にいるでしょうか!)。

『ロッキー』『ランボー』のシルベスター・スタローンしかり、『ターミーネーター』のアーノルド・シュワルツェネッガーしかり、ハリウッドのアクションスターはいくつになっても同じ役を演じる演じる。

往年のファンとしてはもちろん、同じ顔の同じキャラに再会できて嬉しい。けど、年老いた彼らのアクションを観るのは、いささか複雑なものがあります。

(※クリント・イーストウッドの『ダーティハリー』はもうないでしょう、たぶん……ていうか絶対無理! 逆にトム・クルーズは80歳過ぎても『ミッション・インポッシブル』やってたりして。ノー・スタントで。)

■R・スコットが監督を回避■

メガホンは当初、リドリー・スコット御大が自らとることになっていたはず。でも製作総指揮に回っちゃいましたね。私としては、続編作るならぜひ彼にやってほしかった。なぜなら『ブレードランナー』は、次の3つの見事な融合によるものだと思うからです。

①リドリー・スコットの映像

②ヴァンゲリスの音楽

③フィリップ・K・ディックの原作小説(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)のテーマ

R・スコットの映像、これはもう、その後に出てきたあまたの近未来SF映画やアニメに影響を与えつづけている(これを観た他のすべての映像作家たちの頭に残って消えない、一種の呪縛としての)荒廃した都市のイメージでしょう。

全編にわたるセピア色の暗いトーン。あちこちの煙突から立ちのぼり空を厚く覆う陰鬱な煙。たえず降り注ぐ冷たい酸性雨。その下を行きかう多種多様な民族・言語。新しさと古さがマッチした建築・インテリア・ファッション。ロサンゼルスでありながら随所に見られる日本語(ひらがな・カタカナ・漢字)の文字。退廃、混沌、けばけばしさ、騒々しさのてんこ盛り。そして〈強力わかもと〉の巨大な電子公告。

(※そういえば今回〈強力わかもと〉は登場しなかったなあ。残念!)

前作『ブレードランナー』で、完全主義者のリドリー・スコットは、こうした要素をまさに完璧に映像化していました。完璧すぎるがゆえ、続編を彼以外の人が監督した場合、〈リドリー・スコット的〉な映像はできたとしても、彼ほどの完成度は望めないと思ったのです。

リドリー・スコットが監督を降りたと聞いたとき、私は残念であるとともに不安を覚えました。「他の人で大丈夫なの? ちゃんと俺たちを満足させてくれるの?」と。

■D・ヴィルヌーヴの男気■

本作の監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴはそりゃ大変だったでしょう。この映画は紛れもないカルト・ムービーであり、SF映画の金字塔であり、ファンの期待度は半端じゃないですから。本人は「長い戦いだった。すごく大変だったよ」と語っていますが、自信はあったはずです(そりゃそうだ。相当な自信がなけりゃ、こんな仕事引き受けません)。

この35年でVFXは圧倒的に進化したし、表現手法の引き出しもずいぶん増えましたしね。

結論として、ドゥニはリドリーの映像世界をしっかり継承しつつ、自分なりのテイストを加え、物語のスケール・アップに成功しています。

屋外シーンをいくつか入れて作中世界に広がりをもたせたり(なるべく自然光を取り入れたとのこと)、街中の日本語を控えめにしたり(ハングルや中国語もありました)、前作の〈雨〉に対して〈雪〉を効果的に使ったり(ドゥニの出身国・カナダのイメージを重ねている?)。

もちろんCGもあります。たとえば、大企業社長ウォレスが使う、空中をぷかぷか漂う怪しい装置とか(形状は〃柿の種〃をイメージしたというのは本当?)。ビル10階くらいの高さの裸のバーチャルおねえさんとか(これはヤバいです。もし現実にこれがあったら、落ち着いて道も歩けません)。

終盤登場する昔と同じ姿のレイチェルも、前作映像の再利用ではなくCGだそうです(代役女優が演じたものに、ショーン・ヤング協力のもと、モーションキャプチャーでCG合成)。あのショーン・ヤングも本作に関わっていたなんて……ファンとしては胸が熱くなりますね。

他の監督なら足がすくんでためらうほどの大役に真正面から取り組んだ、ドゥニ・ヴィルヌーヴの男気に拍手!

(※勝手な推測ですが、R・スコットが監督しなかったのは「やればやれるけど、これほどのクオリティの映画をもう一度作るのは、正直しんどい」もしくは「続編やろうと思ったけど、よく考えたら一作目に全身全霊打ち込んじゃったので、モチベーションが出ないわ。誰かやって!」というのが理由だったような気がします。)

 ■こんなところが楽しめた■

本筋以外の部分で、ファンの心をくすぐるシーンをいくつか挙げてみます。

①ストレス・チェックの場面

主人公のK(ライアン・ゴズリング)が警察署に入るとき、AIから音声による精神鑑定のようなものを受けます。次々と繰り出される質問に素早く答えさせられたり、早口言葉みたいなのを何度も言わせられたり。これって特別なセンサーみたいなやつでサクッと調べればいいと思うんだけど、わざわざ喋らせるという、未来社会らしからぬアナログで手作業(口作業?)的な方法をとるところが面白いですね。

前作でもデッカード(ハリソン・フォード)たちブレードランナーが、人間とレプリカントを識別するのに〈フォークト・カンプフ検査〉というのを用いていました。これは相手が動揺するような過激な質問をして答えさせ、表情や瞳孔の微細な動きなどから人間か否かを判定するというもので、こちらもローテクです。

〃ハイテクの中のローテク〃という時代錯誤感は〈ブレードランナー・ワールド〉を味わい深くしている要素のひとつ。これは原作者フィリップ・K・ディックの小説世界を反映しており、私は大好きです、はい。

②ジョイという存在

ブレードランナーのKにはジョイ(アナ・デ・アルマス)という彼女がいます。彼女といってもその正体はAIで、姿はあれど実体のないホログラムにすぎないんだけど。ジョイの可愛らしさといったら! 恋人(?)のKにどこまでも尽くすさまはじつに感動的です。

ホログラムの強みで、一瞬のうちに衣装を次々に替えてKの目を楽しませるジョイ。苦悩するKに、一生懸命励ましの言葉をかけるジョイ。彼女のそういう「ご主人さま……」的な様子は、日本のメイド喫茶を連想させました。そういえばジョイも、さっきの巨大なバーチャルおねえさんも、成熟した大人の女性ではなく美少女ですね。どちらも日本のアニメ文化や〃かわいい〃文化の影響を感じます。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、もしくは関係者の誰かの好みでもあるのでしょうか。

③ヴァンゲリスの音楽

〈ブレードランナー・ワールド〉にヴァンゲリスの音楽は欠かせません。無機質でありながら奥行きも情感もあるシンセサイザーの調べは、この映画にピッタリです。心のひだをザラっと撫でるような激しさ、なまめかしさがあります。

前作の有名な『ブレードランナー/エンド・タイトル』(とにかくカッコいい。何度聴いてもシビレる!)や、『ラブ・テーマ』(デッカードとレイチェルのロマンチックな場面で使用)は出てきませんが、作中、ヴァンゲリスの音楽は使われています。

特に本作のラスト、Kが舞い落ちる雪の中で横たわるシーンで流れる切ないメロディーは、本当にグッときます。

④あの人ってたしか……

前作に出ていたデッカードの同僚ガフ(エドワード・ジェームズ・オルモス)も登場します。だいぶ老け込んでましたが、得意の折り紙はしっかり披露してくれました。(いいね!)

  ■こんなところが気になった■

逆に、少々引っかかった点もありました。

①上映時間が長い

多くの人が言及しているように、2時間43分の上映時間はやはり長い。『ブレードランナー』ファンの私でさえ、ちょっと大変でした。思い入れも予備知識もない人が観たら、かなり辛いのではないでしょうか。

でもこの映画ほどの完成度、クオリティの高さ、テーマの奥深さを追求していくと、とても2時間じゃ収まらないんだと思います。リドリー・スコットが前作に何度も手を加えていくつものバージョンを作ってしまったのも、完璧主義者としてのこだわりのせいなのでしょう。

リドリーに負けないくらいのこだわりを、ドゥニ・ヴィルヌーヴも持っているんでしょうね。

彼ら一流クリエイターの創作意欲を最大限まで掻き立てる何かが、この映画にはあるということです。

②デッカードのTシャツ

公開前に映画のポスターを見たときから思ってたのですが、デッカード(ハリソン・フォード)が登場時に着ていたグレイのTシャツ、どうにかならなかったんでしょうか? あれってどこでも売ってそうな普通のやつですよね。『ブレードランナー』は大きなセットから小道具に至るまで、独特な近未来デザインであふれているのが魅力。つまり非日常感で統一されているから作品に没入できるのに、Tシャツというごく日常的なもののせいで、ちょっと白けてしまいました。

Tシャツでもいいけど、〈ブレードランナー・ワールド〉にフィットした〃レトロ感のある未来的な〃デザインのTシャツにしてほしかった。

③ハリソン・フォード活躍してた?

再びハリソン・フォードが出演すると聞いたとき、最初は彼が主人公だと思ったんですよ。その後主演はライアン・ゴズリングであることを知り、「脇役だとしても主役級の活躍するんだろうな」と期待しました。

でも本作において、デッカードのアクションといえば、R・ゴズリングと殴り合うシーンくらいのものでした。あとは敵の一味にあっけなく捕まったり、溺れて死にそうなところを助けられたり。

活躍したとはとうてい言い難いんですよ! 75歳という年齢を考えたら、こんなものなのかもしれないけど、今度『インディー・ジョーンズ5』をやるって言ってるし。

要するに、デッカードの存在理由は1作目と2作目の連続性・結合性に厚みをもたせることだったのかな、という気がしました。

H・フォードのいちファンとして「どうにも残念です……」と言わせて下さい。

 ■全体を通して■

好みは分かれると思いますが、前作を観たことがない人でも、本作は充分に楽しむことができるんじゃないでしょうか。何やらよくわからない箇所もありますが(前作ファンの私でさえそうです)、そのへんはちょっと置いといて、迫力に満ちた美しい映像と切ないムードにどっぷり浸かることができれば、ハイレベルのSF体験ができます。

映画には、最初はピンとこないけど、何度も観ているうちにどんどん魅了されていく作品ってあるじゃないですか。私の場合、前作がそのパターンでした。原作小説を読み、ビデオを繰り返し観ることでどんどん深みにはまっていくという。

そのうちブルーレイが出たら、購入して細部を確認してみます。いや、もう一度映画館へ足を運んでもいいかな。

今回初めて〈ブレードランナー・ワールド〉に触れてみて「何かあるぞ」と思った方、どうか二度、三度とトライしてみて下さい。

観れば観るほど、この作品により深く惹かれていくご自身に気づくはずです。


以上、松鷹守でした。

〈ゆるやかな惑星〉でまたお会いしましょう!

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする